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起業だけじゃない?「アントレプレナーシップ」を身に付ける授業

こんにちは、工学部マテリアル工学科4年の亀田です。 今回は、私が2020年のS1、S2ターム(S1タームは4月から5月末頃、S2タームは6月から7月末頃までの授業区分です)で受講した、工学部共通科目の授業「アントレプレナーシップⅠ・Ⅱ」(通称:アントレ道場)について紹介します。

アントレ道場とは

皆さんアントレプレナーシップ(Entrepreneurship)という言葉をご存じでしょうか? 日本語では主に「起業家精神」という意味を持ちます。 この授業では、アントレプレナーシップを「自らコントロール可能なリソースを超えて機会を追求し、社会の課題を解決することで新たな価値を創造して、それを維持可能な形で提供し続けること」と定義しています。 これは、不確実性の高い環境下で何かを成し遂げたい人が活かせるスキルであり考え方で、起業を志す学生のみならず、卒業後に大企業や公的機関、研究機関などで働く、多くの東大生にとっても非常に実用的なものです。

アトレプレナーシップⅠ(S1ターム)では、講師の方々による基礎知識・考え方の説明、実際に起業した方々によるゲスト講演が行われます。 そしてアントレプレナーシップⅡ(S2ターム)では、受講者同士でのグループワークとしてスタートアップの実践演習を行います。 これらのプログラムを通してアントレプレナーシップを広く学ぶことができます。

授業では、Zoomだけでなく、受講者とのコミュニケーションツールとしてSlack、宿題の提出場所や受講者同士のプロフィール紹介として簡易的な掲示板機能を持つScrapboxなどのアプリを使いました。 「オンライン授業元年」だった昨年度、私が受けた授業の中で、一番工夫された授業でした。 ちなみに2021年度のアントレ道場では、Google Classroom、Discordがコミュニケーションツールとして採用されたそうです。

また、この授業は工学部共通科目の授業ではありますが、工学部以外の学部や大学院からも受講が可能です。 実際文学部や経済学部の学生や、前期課程の2年生も受講していました。 さらに、単位が不要な人は履修登録をせずにweb登録をするだけで受講が可能なので、もしこの記事を見て気になった方は、気軽に受講を検討してみてはどうでしょうか?

ゲスト講演

アントレ道場の最初の目玉が、 S1タームで行われる起業家の皆さんによるゲスト講演です。 私が受講した2020年度でも、様々なジャンルのベンチャー企業の起業家の話を聞くことができました。 中でも特に印象に残った講演を二つ紹介します。

1つ目は、乳がんの超音波画像診断装置の開発を行う、株式会社Lily Medtechの代表取締役である東志保氏の講演です。

起業に至るまでの東氏の波瀾万丈な人生と、既存の乳がん検診方法であるマンモグラフィが抱える課題とその解決策の話だけでなく、今後のLily Medtechの事業展開・目標まで聞くことができ、非常に興味深かったです。

2つ目は、株式会社MujinのCEOである滝野一征氏の講演です。 Mujinはロボット知能化技術を用いて、需要が拡大している物流倉庫を中心に産業用ロボットの自動化を行っている企業です。 創立から10年以上が経過し、現在は150人の従業員を雇い、海外展開も行うなど、規模が拡大している企業なので、他のゲスト講演では聞けなかった話も聞けました。 信頼できる共同経営者の見つけ方や、会社が大きくなっていくことに伴う経営の難しさについての話はとても新鮮でした。

このゲスト講演は、毎年呼ばれる起業家が変わるのも魅力です。 今年はどんな方々が呼ばれるのか非常に楽しみですね。

スタートアップの実践演習をしてみて

そして最後の目玉が、S2タームで行われる、スタートアップの実践練習です。 大まかに説明すると、

  • 受講者同士でランダムにチームが組まれる。
  • アイデアの選定・顧客インタビューをチームごとに行う。
  • MVP(Minimum Viable Product)の作成
  • 本物の投資家や他のチームの受講生に向けてアイデアをプレゼンし、評価してもらう。
  • 振り返り

という一連の流れを、わずか2ヶ月の短い期間で2サイクル行いました。 ちなみにMVPとは、顧客に価値を提供できる最小限の製品・製作物のことを指します。 例えば私がいたチームではアイデアを紹介するための簡単なWebページやデモ動画、試作アプリなどを作成しました。

この一連の流れのうち最も大変だったのは、MVP作成とプレゼンに向けた資料の用意でした。 私はプログラミングの経験がなく、アプリの制作はできませんが、イラスト制作・デザインの経験が多少あったので、アイデアのロゴ作成や、スライド作成、デモ動画作成などを担当しました。 ビジュアル面で他のチームとも差をつけることができ、投資家の方々に向けたプレゼンもうまくいった感触がありました。

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1サイクル目で私のチームで考えたアイデアは、「ビデオ会議前に、たった1分でスピードメイクできる。」というキャッチコピーの「Make@webcam」というものです。 2020年の6月頃は、ビデオ会議を行う機会が増え始め、顔を出してこれらに参加をすることへの面倒臭さが徐々に溜まってきていた頃でした。 そのため、これなら身だしなみを気にする人々に興味を持ってもらえるのではないかと思い、このアイデアで勝負することに決めました。 とはいえ、MVPのために試作アプリを作成する時間はなかったので、チームメイトと協力しながら既存の化粧アプリを使って機能を紹介できるデモビデオを作成しました。 のちにこのアイデアに似たようなものが、実際にZoomでも「外見補正」や「スタジオエフェクト」という機能として実装されるようになったので、改めてアイデアの狙いとしては悪くなかったのだなと再確認でき嬉しかったです。

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2サイクル目では、「カフェの中が見えるアプリ」というキャッチコピーの「Peep Café」というものを考えました。これは、時間潰し・テレワーク・仕事の打ち合わせなど様々な目的でカフェを利用したくなった時に、位置情報・混雑状況・施設条件や利用目的などの条件から、最適なカフェを選べるようにする、というアイデアです。 これは普段カフェを使わない場所で探そうとしたら、複数の店舗を転々とすることになった、というチームメイトの体験談がもとになっています。 また、知り合いの学生や社会人にもインタビューを行ったり、このようなアプリを導入した場合、店側に欲しいメリットなどもインタビューできる機会があり、多角的な視点で検討を行えたのは貴重な体験でした。

プレゼン後は、学生からの投票ランキング・投資家からの評価ランキング・投資家による投資希望金額のランキングが発表され、ちなみに私のいたチームは

  • 1サイクル目 投資家からの評価ランキング:3位 投資希望ランキング:3位
  • 2サイクル目 投資家からの評価ランキング:9位 投資希望ランキング:8位

でした。受講者によるチームは全体で50チームあり、上位にランクインできたのは非常に嬉しかったです。

最後に

実はこのアントレ道場、S1タームとS2タームの授業だけでなく、夏季休暇中に実施される「アントレプレナーシップ・チャレンジ」というビジネスアイデアコンテストもあります。 より実践的な経験がしたい方、学生のうちに本気で始めてみたいプロジェクトがある方は、ぜひこちらの参加も検討してみてください。 この授業についての最新の情報はこちらに載っておりますので、ぜひチェックしてみてください。