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物理工学科の黒川と申します。 本記事のテーマは高専編入生インタビューです。 多様な経験をしてきて、今現在も面白そうなプロジェクトに参加しているという渡邉さんを取材しました。 インタビューでは高専とそこからの編入制度、テックガレージなどでの活動についてお聞きしました。
黒川:物理工学科所属の黒川です。よろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。
渡邉:高専の機械電気(ロボコンをメインでやるような学科)から東京大学のマテリアル工学科に編入した渡邉です。
よろしくお願いします。
黒川:すごく基本的なことなのですが、高専ってなんですか。
渡邉:経済系の高専もあるらしいですが、ほとんど工業系の高専、あとは船に乗る人が行く商船(商船高等専門学校、商船高専)というものがあります。
高校は3年間で終わりますが、高専は専門分野を2年生とか早い時期から始めて5年間で準学士というところまで勉強します。
そこで多くの人は就職しますが、大学に編入するというパスもあります。
結構レアですが。
東大への編入の場合は学科を決めた上で2年生に編入することになります。
高専と普通科の高校との違いとしては、まず先生が違います。
高校では教員免許がいると思いますが、高専の先生は身分としては研究者なんです。
高専生は5年生で研究室配属があって、卒業論文も書きます。
先生方の専門の話が深くて面白かったり実用的だったりしました。
黒川:それはいいですね。どういう研究をしていましたか。
渡邉:老朽化した橋に亀裂があることがありますが、そのような狭い場所に入って行き映像を撮ってこられるようなロボットを作って研究として発表しました。
研究というよりは実装ですかね。
黒川:実装ですか。
渡邉:データをとって新しい傾向を見たり新しいことを明らかにしたりとかではなく、実際にものを作って動くかどうかみたいなことの検証を行いました。
大学に入って思うのは論文の書き方のサポートが充実していますね。
ALESSの成果物を読みましたが、さすがだなって思いました。
黒川:卒論を書いたんですよね。
渡邉:書きましたが、学術的なものを書けたかといえばそうではなかったでしょう。
黒川:ありがとうございます。
高専出身であることのメリットってありますか。
渡邉:専門を知っていること、工学的な知識に関してだけかもしれませんが、みなさんよりも時間をかけて勉強している点でしょうか。
大学の授業は進みが早いですよね。
例えば熱力学は僕たちは高専で2年かけてやりましたが東大では半年でやったみたいですね。
みなさんがそのような短期間で理解できたことに驚いています。
高専で学習を積み重ねてきたベースがなかったらダメだったかもしれないと思います。
黒川:それは大きなメリットですね。
黒川:渡邉さんは高専と大学で専門が変わっているようでしたがなぜですか。
渡邉:編入試験についてなんですけど僕らは大学を受けるときに願書と一緒に、希望の配属学科を書いて出すので大学を受ける時点で配属が決まっています。
進学選択のように学部学科についてよく知ってから選ぶのではなく受験の時点で決定します。
試験日が被らないので東大と京大と阪大などいくつも併願できます。
なので挑戦する感覚で色々な大学を受けられます。
黒川:すごいですね。
渡邉:大学受験の際、東大以外にもいくつかの大学を受けたのですが、専門を変えたのは東大だけだったんです。
東大はすぐに研究室配属というわけではなく2年から入れるので専門を変えても研究室配属までに基礎が身につくと思いました。
なぜマテリアル工学科かというと、自分で何かを実装する際にもっといいものを作りたいと思ったとき、機械科や電気科にいた頃だと、いい部品を探すというアプローチしかなかったんですけどマテリアル工学科に入ると新しいものを作るときにもう少し基礎的な部分から取り組めるじゃないですか。
それがやりたくて選びました。
黒川:その気持ちわかります。私が所属している物理工学科でも工学的な課題に対して基礎的なアプローチを取ります。
他にも高専生のメリットはありますか。
渡邉:普通の高校生と違って塾に行かないので自分の時間があることもメリットですかね。
3年生の時ってロボットやプログラミングのコンペがあったり、海外留学ができます。
黒川:渡邉さんもどこかに行きました?
渡邉:4年生でドイツに行きました。
3,4年生は楽しかったです。
自由なのでやりたいことができました。
3Dプリンタで面白いものを作って持っていくというコンペが毎年あって、その時は飛行機を作り飛行距離を競いました。
兄も高専に通っていたのですが、その兄と一緒にコンペに参加しました。
黒川:何か作ろうと思った時、使いたい機材が揃っているというのも普通の高校との大きな違いですね。
渡邉:そうなんですよ。
うちの高専はロボコンが強いことも関係しているのか、5年前でも3Dプリンタが6台ありました。
先生が面白そうなものをすぐに買ってくれるような人でした。
また先生のおかげでチューニングも完璧でした。
面白そうな機材を積極的に取り入れ調整も怠らない姿勢を横で見ることができたのはとても良かったと思います。
デメリットとしては5年間同じ友達と過ごすので、人間関係など環境が合わないときついことでしょうか。
機械科1学年40人で固定で男女比が1:0、社会に出て困るのではないかと思うこともありました(笑)。
黒川:渡邉さんは知り合った時から様々なイベントやプロジェクトに精力的に取り組んでいるという印象でした。
ここではまず現在も進行中のテックガレージでの活動について聞いてみたいと思います。
そもそもテックガレージってなんですか。
渡邉:テックガレージでは、資金援助やプロトタイプ(試作品)を作るための工作機械(3Dプリンターなど)の貸出があり、プロジェクトの相談に乗ってもらえたり、出資者からのフィードバックをもらえたりと様々な形の支援を受けられ、ビジネスを軌道に載せるまでの面倒を見てもらえます。
それぞれ詳細に見ていきましょう。
ビジネスを目指すプロジェクトがあるとテックガレージに入ります。
テックガレージにはいろんな利用者がいますが、例えば長期休暇中に行われるそのようなビジネスをプロジェクトを支援しているSFPというプログラムがあって、自分たちがやりたいビジネスをプレゼンして顧客インタビューやプロトタイプ作りを行い最後に発表します。
黒川:コンペとは違うんですか。
渡邉:2ヶ月間でビジネスの駆け出しの段階まで持っていく過程を経験できます。
具体的にはプロトタイプを作ってプレゼンを行いテックガレージの出資者に見てもらうことで、ビジネスを軌道に乗せるまでの面倒を見てもらえます。
テックガレージにはもちろん3Dプリンタなど加工機械も置いてあります。
プロジェクトがある人があそこに行く感じで、そこで人々が趣味の開発をしているわけではありません。
黒川:テックガレージは元々技術力がある人が集まるのですか。
渡邉:そうではないです。
プロジェクトにエンジニアを一人以上入れることは推奨されますが、新しいアイディアを実現しようとする姿勢が大事です。
技術だけあってアイディアがないと苦しい思いをすることになるかもしれません。
作りたいもの、解決したい課題がある人が向いていると思います。
技術的に困れば人に聞けばいいですがアイディアがない場合は誰に聞いても「私が知りたいよ」という感じになりますよね。
テックガレージのプロジェクトではいろんな関わり方ができます。
マネジメントだったり、プレゼンで英語力を生かしたり等々。
黒川:今までどんなプロジェクトに取り組んでいましたか。
渡邉:最初はマテリアル工学科の人たちとVR上でものを触った時の感触を伝えるデバイスの開発を行いました。
その時はプロジェクトの技術メンバーとして誘われました。
プロジェクトの進め方とかは気にせず高専生らしく物づくりに専念していました。
この春の2回目のSFPではいかにもマテリアル工学科らしいプロジェクトを目指しました。
糖尿病の早期発見のために、トランジスタの界面にグルコースだけに反応する素材をつけたデバイスをトイレに取り付けることで糖尿病の人を見つけ出せるのではないかと思い取り組みました。
糖尿病の食事の勉強会にも行きました。
血糖値がわかるパッチをしたまま一日過ごしてみたりとかもしました。
自分の体を用いつつ検証する。
この作業がいかに大事か気づきましたし、やっていて楽しかったです。
他にも、声帯を失ってしまった人のための人工声帯を作るために、首につけてやると声が出る振動モーターのデバイスのプロジェクトもやりました。
普通の振動モータを使うと均質な振動しかしないのでロボットっぽい声が出てしまうのですが機械学習を用いて元々喋っていた声に合わせて変調させてやるといい感じの声になりました。
そういうプロジェクトをやる時、実際にご病気の方と話をしたりする必要がありますよね。
そのようなことは今までやって来ませんでしたが、このプロジェクトを通してその重要性を知ることができました。
また先ほどの糖尿病早期発見デバイスとも関わりますが、医療器具を作るにはいろいろな法的制限があってスーパーで販売できないとか、満たすべき基準とかがあって難しいと思いました。
フィットネスとして売り出したくても法的には準医療器具として分類されます。
基準を満たさなくてはいけないし、販売する場所も決められていることもやっていくうちに知りました。
黒川:いろいろなことを知らないといけないですよね。
プロジェクトの成否ももちろん大事ですがいろいろな経験ができた点で有意義でしたね。
黒川:テックガレージっていかにも物作りをしているイメージだったのですが、違うんですね。
渡邉:実際はプロジェクトをどう進めるかに焦点を当てています。
高専の時はプロトタイプを顧客が気に入るかはあまり気にしなかったのですけど、テックガレージのプロジェクトではいいプロトタイプを短期間で作りつつ、顧客インタビューを重ねて世の中にとって意味のあるものを作ることに焦点を当てています。
その考え方に強く影響を受けました。
技術力を結集させるだけではダメだということに気づきました。
黒川:プロジェクトの進め方を学んだのですね。
渡邉:ここまで意識して物作りをしたことがなかったです。
いい経験ができる場所だと思います。
研究活動の役にも立っていますね。
新規性のないところにリソースを割いても、社会にとって意味のある論文が書けないだろうと思います。
黒川:テックガレージではいろんな人に会い刺激を受けることができるようですね。
渡邉:ドクターの人とも出会えます。
プロジェクトの進め方がうまい人、荒削りでも前にしっかり進んでいける人等々いろんな人々を見てきました。
自分も頑張ろうという気持ちになります。
黒川:テックガレージの先生だけではなく周りの人からの刺激も大事ですね。
渡邉:毎週定例会があってそこで他のプロジェクトの人と交流し打ち解け合える機会がありました。
そこをきっかけに別のプロジェクトに引っ張ってもらえて新しいプロジェクトに参加することもありました。
プロジェクトがうまくいっている人たちに呼ばれることもあり、そこでもいい経験ができました。
黒川:好循環が生まれていますね。
黒川:今取り組んでいるプリジェクトはありますか。
渡邉:今はHARVESTXというプロジェクトに参加しています。
そこではイチゴを自動で収穫するロボットを作っています。
黒川:それもテックガレージのプロジェクトですか。
渡邉:昔テックガレージでSFPのプロジェクトとして始動しましたが今は次のステージに行こうとしています。
東大はスタートアップ支援を手厚く行っていますが、テックガレージはその初期段階で利用されることが多いと思います。
次のステップ、つまり実際に会社を運営するステップはまた別のコミュニティーで行われます。
物作りは引き続きテックガレージで行われことがありますが活動の拠点が移行します。
黒川:これまでのプロジェクトとの違いは何ですか。
渡邉:HARVESTXにはとても技術力が高い人がいるのが嬉しいです。
僕は工作機械の使い方や諸々の実装とかを自己流でやることが結構あったのですが、電気電子出身の技術力が高い人がいるので、正しいやり方を知ることができて良いです。
黒川:今後の展望とかありますか。
渡邉:卒論を頑張りつつ、イチゴのプロジェクトを頑張ります。
面白いアイディアがあれば社会実装までやりたいですね。
CEOよりもエンジニアとしてプロジェクトにかかわる方が肌にあっていると感じます。
スタートアップみたいにゼロから始めるのではなくすでに軌道に乗っているものに参加したいですね。
先ほど述べたすでに成熟しているイチゴの収穫ロボットのプロジェクトとかですね。
黒川:面白いお話が聞けて良かったです。
ありがとうございました。
渡邉:こちらこそありがとうございました。