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ドクターインタビュー: 伊與木 健太さん

博士課程で研究に打ち込む研究者たちはどのような人なのだろうか.その実像に迫るべく,ゼオライトの研究の第一線で活躍している,いよき 健太さんにインタビューを敢行しました!
いよき健太さんは化学システム工学の博士課程3年に在籍し,ゼオライトと呼ばれる物質の研究に携わって6年になります(学部の4年に研究室に配属される).この間,数々の業績をあげてきたいよきさんですが,彼が考える博士とは,研究とは,どういうものなのでしょうか?博士課程の卒業を一年後に控えた今,自らの研究生活を振り返ってもらいました.
受賞記事:http://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/topics/2012/12082905.html

[caption id="attachment_524" align="aligncenter" width="300"]図1. 学会でロシアを訪れた際の一幕 図1. 学会でロシアを訪れた際の一幕[/caption]

◆原子の箱,ゼオライト
みなさんは,ゼオライトと呼ばれる物質を知っていますか?身近なものでは,資生堂のAg+に使われていたり,最近ではセシウムなどの放射性物質の吸着にも使われていたりする,非常に重要な物質の一つです.いよきさんはこのゼオライトについて研究しています.

[caption id="attachment_523" align="alignright" width="300"]図2. ゼオライトの結晶構造 図2. ゼオライトの結晶構造[/caption]

ゼオライトの特徴は,その結晶構造にあります.ゼオライトは主に、二酸化ケイ素 (SiO2) から構成されています.二酸化ケイ素SiO2は互いに手をつなぐようにつながっていき,結晶構造をとるのですが(図1),このつながり方に特徴があり,内部に空間をもつ構造となります.結晶化したゼオライトには,ナノメートル,あるいはそれ以下のサイズの大きさの孔が規則正しく並んでいるのです.(ナノメートル:髪の毛の直径のおよそ10万分の1の大きさ!)

さらに、ゼオライト中のSiをAlなどで置換することにより様々な性質を示す事がわかっています。例えば、Siイオンは+4の電荷を帯びているのに対してAlイオンは+3の電荷を帯びています.酸素イオンは-2ですから、SiO2だとプラスマイナスゼロなのが、Alだと+1足りなくなります。そのため,ゼオライトの結晶構造に含まれるSiの一部をAlなどに変えてやると、全体としてマイナスの電荷を帯びることになります.その結果,プラス電荷をもつイオン(ナトリウムイオンやセシウムイオン)などが引きつけられて,孔の中に閉じ込められやすくなるのです(図2).

最初に紹介したAg+は,この性質を利用して,ゼオライトの中に抗菌作用をもつ銀イオンを閉じ込め,ゼオライトごとスプレーすることで,体に銀イオンを塗布しています.セシウムイオンも同じ性質からゼオライトに吸着されます.このように,ゼオライトはプラス電荷を帯びたイオンを吸着することができるのです.いわば,原子を閉じ込めるための箱といえるでしょう.

知らず知らずのうちに私達もその恩恵を受けているかもしれないゼオライトですが,いよきさんはこのゼオライトでどのような研究をしてきたのでしょうか?

◆研究に「はまった」瞬間
「主にゼオライトの”合成方法”に関する研究を行なっています.従来のゼオライト合成の多くでは,二酸化ケイ素などの原料の他、ゼオライトの孔を形作る鋳型のような役割の有機物を用いていました.しかし,二酸化ケイ素が非常に安い一方,有機物は非常に高い.だから,結局ゼオライトの合成には多額のお金がかかります.そこで,有機物を使わずにゼオライトを合成する研究を行なっています.」

有機物を使わずに合成する仕組みは,非常に単純だそうです.作りたい構造をもつゼオライトを”種”として溶媒に入れておくと,そのゼオライトの表面から同じ構造のゼオライトが有機物がなくても勝手に成長してくる,という仕組みです.

もともとこの現象に関する論文が発表されたのは2008年の秋,ちょうどいよきさんが研究室に配属されて初めての冬を迎えようという頃でした.発表された,有機物を使わずにゼオライトを合成するという成果は,従来のゼオライトの合成に関する常識をくつがえすものでした.しかし,その実験条件の厳しさから,世界中の研究者が同じ実験をしても良い結果が得られなかったそうです.そんな折,論文に掲載されたものと似た構造をもつゼオライトで別の実験を行なっていたいよきさんが試してそれをみたところ,見事にゼオライトが成長したのです.この成果を論文として発表したところ,世界中から反響があったといいます.日本の裏側にあるブラジルから論文に関するメールが届くこともあったそうです.

「試行錯誤しながら紆余曲折を経て結果を出せたことが,とても面白かった.今思うと,研究に”はまった”瞬間でしたね.」

-研究のどういうところが楽しいのですか?

「自然との勝負,という感じが楽しい.さっき話したゼオライトの合成実験ですが,成功するかどうかは実験条件に大きく左右されます.『この条件なら成功するだろ』と思って失敗したら悔しいし,逆に思い通りの結果が得られると,『よっしゃ!』って思います笑.あとは,自分の研究成果を、例えば工場などいろいろなところで使ってもらいたい,という夢もあります.」

このように研究にはまってしまったいよきさんですが、博士課程まで進学するとなるとそれなりの覚悟が必要であったことが窺えます.いよきさんはどのように博士課程進学を決めたのでしょうか?

◆博士課程進学を決めたわけ

「博士課程への進学を決めたのは,学部4年生のときです.修士課程で就職するのは中途半端な気がして.どうせやるなら博士課程まで!という気持ちでした.あと,教授に進学したら海外で趣味のスキーをやらせてやるって言われたのも理由の一つかもしれません笑」

そう語るいよきさんの中では,修士課程を出て就職という選択肢があまりなく,学部を出て就職か,博士課程まで進学するかの二択が主だったそうです.その時の決め手になったのは幼い頃からの,研究者になりたいという漠然とした夢でした.子供の頃から理科の実験や科学の本が好きで,両親にも研究者になりたいと話していたと語るいよきさん.その後高校で化学の先生と仲良くなったことをきっかけに化学者への夢をふくらませていきました.

「子供の頃からそう思っていたから,自然に博士に進学したという部分もあるかもしれませんね笑」

そして,大学に合格し博士課程に進学することで研究者という人生を歩んでいる.いよきさんの考える博士課程と研究とはどのようなものなのでしょうか?

[caption id="attachment_522" align="alignright" width="200"]図3. ゼオライトの模型手にするいよきさん. 図3. ゼオライトの模型手にするいよきさん.[/caption]

◆博士課程の魅力

「博士課程に入ってから思ったのは,博士課程在籍中のうちにやれることって結構大きいなってことですね.例えば、学部や修士で就職すると,その会社で一番下になっちゃうのに対して,博士の学生は研究室でリーダー的なポジションになります.一緒に研究している学生にアドバイスをしたり,研究の方向性を自分で決めたりとかなり自由度の高いことがやれます.こういう経験を通して,自分主体で研究を進められるようになります。また、博士号の取得や研究といった目的以外にも,他専攻の博士課程の学生との出会いも大きな刺激をくれることに気づきました。BAP※1やTtime!※2などいろいろな活動をしている人たちがいて,そういう活動を通して今まで自分が知らなかった世界を見ることができるようになります.そういった意味で、博士課程の3年間で得るものはとても大きいと思っています。同様の機会は博士課程に限らず大学生にはいっぱいあると思いますが、気づかないで卒業してしまっている人も多いですね.だから研究だけじゃなくて,そういう情報を自分から集めに行くことが大事で,研究以外にもやりたいをやることができる期間だと思います.」

※1 大学院生出張授業プロジェクト”BAP” (Back to Alma Mater Project) 大学院生が母校で自分の研究内容について授業を行うプロジェクト : http://sc.adm.s.u-tokyo.ac.jp/bap/

※2 現役の東大工学部生が主体となり,隔月で工学部の広報誌を発行する団体.このHPを運営している団体でもある.

いよきさんにとって,博士課程はとても有意義なものであると言います.博士の三年間は損にはならない,そうおっしゃるいよきさんは博士過程で多くのことを学び,そしていよいよ卒業しようとしています.いよきさんの”これから”について聞いてみました.

◆これから

[caption id="attachment_521" align="alignleft" width="200"]図4. 東大にて 図4. 東大にて[/caption]

ドクター卒業後は,民間の企業に就職したり,研究所に所属したり,その道は様々であるが,いよきさんはこれからどのような道を歩んでいくのでしょうか.


 「これからもアカデミックの世界に残り,ゼオライトの研究を続けていきたいと思っています.博士卒業後は海外の大学にある研究室への配属を希望しています.そこでしかできない研究をするためですが、正直、日本語なら100%理解でき、伝えられることを英語だと70%くらいしかできないとすると,アウトプットとしてだせる結果が悪くなるのではないか,と迷ったときもありました。しかしながら、あるとき,それなら海外で120%頑張って日本の100%のパフォーマンスを発揮するしか無い,という結論に至りました.より厳しい環境に身をおくことでもっとやれることがあるのではないかと思っています.」


 -最後にこれから進学してくる学生にむけてメッセージをお願いします.


「すべての学生に博士進学を進める気はありません.その人の向き不向きは必ずあると思うので.だから,たくさん情報を集めて,その上で進学するかどうか判断してほしいです.ただ,自分自身について言うなら,博士課程はとても楽しいです!」

博士課程の三年間をとても楽しそうに振り返ってくれたいよきさん.今後のいよきさんの活躍に期待したいです!(文章追加)


(インタビュアー 本山央人)