東大教授×IT企業社長 〜結局、AIってなに?〜
みなさんこんにちは、マテリアル工学科4年の藤長です!
先日、株式会社アイデンティティー (http://id-entity.jp/)の今野社長から、
「人工知能 (以下AI (= Artificial Intelligence)) を活用する新規事業を考えているため、機械学習の専門家である、東京大学の杉山教授にインタビューをしたいと考えているのですが、そこに同席しませんか?」
という提案をいただきました!
普段私たちが学んでいる工学が、実際どのように社会に活用されているのか気になったので、インタビューに同行することにしました!!!
昨今世間を賑わせているAIは、実際のところ何ができて、その結果どのような社会がやってくるのか、みなさんが考えるキッカケになればと思います!
【人物紹介】
①杉山 将 教授
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻
東京大学 大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻
東京大学 理学部情報科学科
専門:機械学習理論分野(学習理論の構築、学習アルゴリズムの開発、機械学習技術の実世界応用など)
②今野 力 社長
株式会社アイデンティティー代表取締役
事業:ITに特化した人材エージェントサービス事業、求人広告販売事業を展開。IT人材に特化した求人媒体braineerで機械学習を実装
③藤長 郁夫(私)
所属:工学部マテリアル工学科4年
進学先:東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻
研究内容:生体医療材料 (高分子ゲル)
【アイデンティティー 今野社長の新規事業】
新たな活躍の場を探している人と、様々な人材を探している企業とを仲介し、マッチングする人材業界ですが、現在そのマッチングは自動で行うことはできていないことが多いそうです。
今野社長は、そんな人材コンサルティング事業のうち、情報技術者(以下エンジニア)人材部門に絞って事業を展開していて、AIを用いたマッチングの自動化を行うことを考えているそうです。
今野社長「キャリアアップしたいエンジニアを教育し、エンジニアを必要とする企業とエンジニアを効率良く繋げられるような新規事業を考えています。
エンジニアの技能や経験を細分化しマッチングを行う上で、AI技術を応用し効率化しようと考えているのですが、このような技術開発は可能なのでしょうか。」
杉山教授「それは現在の技術でできるかと思います。既に似たような体系の事業をやっている企業もあると思うので、参考にしてみてください。」
今野社長「それはよかったです、勉強させていただきます。」
杉山教授「ちなみに、私の専門は機械学習であってAIではないです。今野社長が考えていらっしゃる新規事業に必要な知識も、どちらかというと機械学習のものであるように感じます。」
【AIと機械学習】
機械学習とは、大量のデータから反復的に学習を行うことで、そのデータの特有のパターンを発見する仕組みのことです。大量のデータから因果関係や相関関係を見つけ、結果に対して支配的なパラメータを特定することは、人力では困難を極めます。機械学習はそういったデータの分析や予測を代行してくれるアルゴリズムなのです。
そして、その機械学習を用いることで、機械に人間の知能そのものをもたせようとしたり、機械によって人間の作業や業務を自動化してやろうというのがAIの研究だといえます。例えば、今野社長が新規事業で必要としているのは、後者のAIに用いられるような機械学習になります。
今野社長「確かに、実社会においてもその違いを意識しないで使っている人が多いかもしれません。AIがまだ新しい概念であるため、実社会では定義付けが曖昧になっている印象を受けます。言った者勝ちの「AI」になっている。何がAIで、何がAIではないのか。」
杉山教授「今野社長のおっしゃる通りだと思います。ITという言葉も一人歩きしていて、情報技術というだけならExcelなんか使う学生さんはみなさんIT系ということになってしまいますよね。」
一同「(笑)」
杉山教授「そして倫理の問題なのですが、一度AIと表現してしまうと、AIが生きている存在であるかのように捉えられ、さらには主語になり得えてしまうのも、今の社会が孕んでいる問題だと思います。AIを搭載したロボットが人間の形をしていれば尚更です。
そのせいで『人工知能は人間を襲うかもしれない』などという意見が出ているのだと思いますが、結局のところAIの学習も人間が設定したもの以上にはなりえません。AIが人間を襲うとしたら、それは誰かがそう学習させたということであり、現在の社会と何ら変わらないですよね。
こういう話題に関して、面白い話があります。
ロボットの研究開発を行うアメリカの企業が先日、新しいロボットの動作点検を行ったときの動画をネットに投稿しました。すると、『そうやってロボットの動作を妨害したり虐待したりしていると、ロボットに復讐されるぞ』といった内容のコメントが世界中から寄せられました。でもこのロボット、人間に復讐しないどころか、AIを搭載してすらいなく、人間が記述した指示通りに動作しているだけなんです。」
私「なるほど。動物の形態は進化的に洗練されいるので、動物の機能を再現したい場合に、ロボットのデザインが自ずとその動物の形態に似てくると聞いたことがあります。
そしてそのデザインのせいで、ロボットが意思を持っていて、虐待したり重労働を強いたりすると反撃されるかもしれないなどという幻想を抱かせるのかもしれませんね。」
【AIの展望】
私「実際のところ、AIが世界に与える影響として、どんなものがあるんでしょうか。」
今野社長「世間では、人間の仕事が奪われていき、失業率が上がるという議論がなされているかと思います。」
杉山教授「あれは全く杞憂などではなく、実際に多くの仕事が人間の手を離れていきます。」
私「(当方、近いうちに社会に出るのですが、、、)」
杉山教授「しかし、現在のパラダイムでは失業率が高いということが負の要素であるというだけで、AIが起こすであろうパラダイムシフト*の後では、また異なった捉えられ方になるかと思います。」
私「確かに、AIによってベーシックインカム**が実現された社会になれば、"失業=社会的な失敗"という構造は成り立たなくなる気がしますね。」
杉山教授「人間の様々な活動の意味や手法なんかを見つめ直す必要が出てきますね。これから先、世界はものすごい速さで変革していくと思います。その変化についていくだけの競争力を、個人単位、企業単位、国単位で身に付けていかなければなりません。
そう考えると、今の日本はあまりにも機械学習のエンジニアが少なすぎます。Neural Information Processing Systems(機械学習のトップカンファレンス)でアクセプトされた論文に占める、日本発の論文はたったの2%でした。」
今野社長「日本でエンジニアが不足しているのは、日々肌で感じています。先ほどお話しさせていただいた新規事業も、そのような背景から、20年以上お世話になっているIT業界に還元したいという思いで始めさせていただいてます。」
私「普段、AIというと、シンギュラリティ***や失業率の増大など、バズワード****になりやすい話題で取り上げられることが多いのがこの国の現状かと思います。
このようなAIへのレッテルも、エンジニアが不足していることも、日本においてまだAIが本当の意味で一般的な概念として浸透していないことが原因なのかもしれませんね。
本日はありがとうございました!
話題性があるだけに様々なバイアスがかかっているであろうAIについて、機械学習を研究されている杉山教授や、AIを社会に活かそうと考えていらっしゃる今野社長を交えて議論することができ、大変いい機会になりました!!!」
将来的にAIがインフラとして社会に浸透していくことは必至なので、個々人がAIの基本的な知識を持ち、過度な不安や期待を抱くことなく上手に付き合っていける社会が実現してほしいですね。
[caption id="attachment_1699" align="aligncenter" width="424"] 昨年号のTtime!と杉山教授[/caption]
パラダイムシフト* : その時代や分野において、当然のことと考えられていた認識や価値観が劇的に変化すること。
ベーシックインカム** : 最低限の生活を送るのに必要なお金を、国が国民全員に給付するという概念のこと。AIの保有・使用に税金をかけたり、AIの導入によって公共事業の人件費を削減したりすることで実現できる可能性があるとされていますが、それに伴う国民の労働意欲の増減に関して賛否両論となっています。
シンギュラリティ*** : 技術的特異点。AIが人間の知能を増幅することができるようになる瞬間のこと。
バズワード**** : 特定の期間や分野において、とても人気となった言葉のこと。魅力的な言葉であるがゆえに様々な場面で多用され、その結果、当初の意図や定義から外れてしまうこともあります。
文責:藤長郁夫